SX時代の企業経営―ポストSDGsを探る―(28) 〝制約の環境政策〟を超えられるか―地域・農業・エネルギーをつなぐ新しい発想―

「環境」と「暮らし」を切り離さない

近年、環境政策をめぐる空気が少し変わってきたように感じる。かつては「脱炭素」「SDGs」「再生可能エネルギー」といった言葉そのものに新鮮さがあった。しかし最近では物価高、人口減少、食料不安、地政学リスクなど、より現実的な課題への関心が強まっている。

その結果、環境政策も「理想論」だけでは人々に届きにくくなってきた。CO2を減らす、資源を節約する、我慢を求める――。もちろんそれらは重要である。しかし、「負担感」だけが前面に出ると、社会全体として長続きしにくい。

これから重要になるのは、「環境と生活をどう両立させるか」という視点ではないだろうか。

筆者は、ビヨンドSDGs時代には、「社会課題を減らす」という発想だけでなく、「人々の幸福や安心をどう増やすか」という視点が重要になると考えている。

例えば、地域に再生可能エネルギーが導入されることで災害時の安心感が高まる。農地が維持されることで景観やコミュニティーが守られる。地元に雇用が生まれることで若い世代が地域に残る可能性が高まる。こうした「暮らしの質」と結び付いた環境政策こそ、これからの時代には重要になる。

環境対応を「制約」としてだけ語る時代から、「充実」や「安心」と結び付けて語る時代へ――。その転換点に私たちは立っているように思う。

「農業を続けるために発電を生かす」

その意味で、先日開催した「未来まちづくりフォーラム」で強い印象を受けたのが、千葉県匝瑳市で営農型太陽光発電に取り組むTERRA代表取締役・東光弘氏の実践である。

東氏は、有機農産物流通に長年携わった後、市民エネルギーちばを設立し、現在はソーラーシェアリングを軸とした地域事業を展開している。農地の上部に太陽光パネルを設置し、その下で営農を継続するというモデルである。

フォーラム当日、東氏が語った「発電のために農業をやるのではありません。農業を続けるために発電を生かすのです」という言葉が非常に印象的だった。

ここには、現在の環境政策が抱える課題への重要なヒントがある。

日本農業は高齢化、担い手不足、気候変動、資材価格高騰など、多くの問題を抱えている。農産物販売だけで経営を安定させることは容易ではない。その中で、「農地を守りながら、新たな収益源を組み合わせる」という発想は極めて現実的である。

重要なのは、農業を犠牲にして発電を行うのではなく、「農業継続の条件を整えるために発電を活用する」という点である。環境対応が現場から支持されるためには、この主従関係を間違えないことが重要だ。

東氏はまた、「農地には作物をつくる以上の価値があります」とも語っている。

確かに農地は、生産の場であるだけでなく、景観形成、水源涵養、生態系維持、防災空間、教育、観光など、多面的機能を持っている。そこにエネルギー供給という役割まで加われば、農地の価値はさらに広がる。

「自由演技」の時代へ

SDGsは、企業や自治体に共通言語を与えたという意味で大きな役割を果たした。しかし一方で、ある段階から「規定演技」化した側面も否定できない。ロゴを掲げ、17目標ごとに整理し、個別施策を並べる――。それは必要な第一歩ではあったが、形式論に陥りやすい面もあった。

これからのビヨンドSDGs時代に求められるのは、「自由演技」である。

農業とエネルギーを重ねる。環境と地域経済をつなぐ。教育や観光、防災まで統合する。つまり、複数の課題を束ね、総合力で成果を上げる時代へ移行しているのである。

東氏の実践は、その象徴例と言えるだろう。農業、再エネ、地域雇用、脱炭素、防災、技術革新――。従来なら別々の政策分野で扱われていたテーマが、一つの現場で統合されている。

人口減少社会では、「一つの資産に一つの機能」という発想では立ち行かなくなる。限られた地域資源を、いかに多面的に生かすか。その知恵が問われている。

環境対応をコストとして語る時代は、終わりつつある。これからは、環境・経済・地域・幸福を同時に成立させるモデルをどう生み出すか。その競争が、すでに始まっているのである。

 笹谷秀光(千葉商科大学客員教授 経営コンサルタント)

SX時代の企業経営―ポストSDGsを探る―(28) 笹谷秀光(千葉商科大学客員教授 経営コンサルタント) 〝制約の環境政策〟を超えられるか―地域・農業・エネルギーをつなぐ新しい発想―_千葉商科大学客員教授/経営コンサルタント 笹谷 秀光
千葉商科大学客員教授/経営コンサルタント 笹谷 秀光=クリックで拡大=
SX時代の企業経営―ポストSDGsを探る―(28) 笹谷秀光(千葉商科大学客員教授 経営コンサルタント) 〝制約の環境政策〟を超えられるか―地域・農業・エネルギーをつなぐ新しい発想―_未来まちづくりフォーラム(2026年3月12日)にて。左が東光弘氏
未来まちづくりフォーラム(2026年3月12日)にて。左が東光弘氏=クリックで拡大=

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