東京下水道の未来戦略/東京下水道と「下水道展’24東京」 安全・安心で快適な都民生活を支える 東京都 佐々木 健
さらにレベルアップし将来世代へ
東京都 下水道局長 佐々木 健
東京下水道を取り巻く状況
東京における下水道の整備は明治時代に始まりました。明治初期の東京では、コレラの流行により多くの死者が発生し、衛生環境の改善が大きな課題でした。こうした状況のなか、1884(明治17)年に神田の一部にレンガ積み暗渠の下水道、いわゆる「神田下水」を布設したのが東京の近代下水道の始まりです(写真1)。
その後、安全・安心で快適な都民生活を実現するため、長い歳月をかけ、下水道の普及を着実に進め、区部では1994年度末に普及率が100%概成し、多摩地域においても普及率が99%に至っています。この間、震災や戦災、財政危機など、多くの困難にも直面しましたが、先人たちはさまざまな創意工夫を重ね、困難を克服してきました。
高度経済成長期には、都市化の進展により、多くの地域で工場や生活排水を未処理のまま放流していたため、東京の川や海の水質は大きく悪化し、隅田川や多摩川は「死の川」と呼ばれるほどでしたが、下水道の整備が進んだことにより、東京の水環境も大きく改善しました。その結果、昭和50年代に入ると隅田川では中止されていた花火大会や〝早慶レガッタ〟が復活し、近年では多摩川には多くのアユが遡上しています。東京の水辺空間は、今日では都民の皆様に親しまれる憩いの場として生まれ変わりつつあり、貴重な観光資源ともなっています。
このように東京下水道は、膨大な施設を24時間365日、休むことなく稼働させることにより、約550万立方メートルもの下水を毎日処理し、都民生活や首都東京の都市活動を支えています。今後も、先人たちから引き継いできた東京下水道をさらにレベルアップして、将来世代に引き継ぐことができるよう、着実に事業を推進していきます。
下水道の役割と「経営計画2021」の推進
下水道の基本的な役割は、家庭や工場等から排出される汚水を処理し、快適な生活環境を確保するとともに、宅地や道路等に降った雨水を排除し、市街地を浸水から守ることで、また下水処理により浄化した水を海や河川などに放流し、公共用水域の水質を保全することです。
こうした役割に加え、近年の社会情勢の変化に伴い、東京下水道には新たな課題の解決が求められています。急速に進行する下水道施設の老朽化対策や気候変動に伴い激甚化・頻発化する豪雨に対する備え、下水処理の過程で使用するエネルギー・発生する温室効果ガスの削減など、取り組むべき課題は多岐にわたります。また、本年1月に発生した能登半島地震の被災状況も踏まえ、今後30年以内に70%の確率で発生することが予想されている首都直下地震への備えも充実させていく必要があります。
東京都下水道局では、下水道サービスのさらなる向上を図るため、21年度から5年間を計画期間とする「経営計画2021」を策定し、事業を推進しています(図)。本計画では、「お客さまの安全を守り、安心で快適な生活を支える」「良好な水環境と環境負荷の少ない都市の実現に貢献する」「最少の経費で最良のサービスを安定的に提供する」の3つを経営方針として掲げています。この方針のもと、老朽化施設の再構築や浸水対策、震災対策など、都民の安全を守り、安心で快適な生活を支える施策を進めるとともに、合流式下水道の改善や処理水質の向上など、良好な水環境を創出するための施策に取り組んでいきます。併せて、エネルギー・地球温暖化対策を推進することで、エネルギー使用量や温室効果ガス排出量を積極的に削減し、環境負荷の少ない都市の実現に貢献していきます。さらに、お客さまの事業への理解や信頼感を高められるよう、人材の育成、技術力の向上、効率的な事業運営に向けた取り組みなど、経営基盤の強化を進め、質の高い下水道サービスを提供していきます。
また、下水道サービスを効率的かつ安定的に提供するため、局の事業を補完・代行する役割を担ってきた政策連携団体である東京都下水道サービス(TGS)に、汚泥処理業務や保全管理業務、下水道管の維持管理業務などを委託しています。
こうしたTGSへの業務委託等を通じて、局とTGSが密接に連携し、事業運営に不可欠な技術やノウハウを共有、蓄積してきました。今後も、局とTGSが「東京下水道グループ」として、局の持つ技術・ノウハウをTGSと共有するほか、現場で培ったTGSの専門性を局に還元するなど、一体的な事業運営を行うことにより、サービスを将来にわたり安定的に提供する運営体制を構築していきます。
さらに、3D測量や画像認識AI、ドローンなどの技術を活用した、画期的な工事出来形確認手法の構築をスタートアップと協働して開始するなど、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを加速させ、下水道サービスの向上や業務効率化によるワークライフバランスの改善につなげていきたいと考えています。
「下水道展'24東京」開催にあたって
下水道が普及概成した現在、多くのお客さまにとって、下水道を日々の暮らしのなかで意識する機会は減ってきています。今後とも円滑に事業を推進していくためには、普段目にすることが少ない下水道の仕組みや役割について広くPRし、事業への理解と協力を得ることが重要です。
また、昨今の物価上昇など、下水道事業を取り巻く社会経済状況は常に変化しており、こうした変化にも的確に対応していかなければなりません。これらの新たに発生する課題を解決していくためには、必ずしも行政だけでそれを成し遂げることはできず、新技術の導入や技術開発など、産学官が連携し、それぞれの強みを生かして創意工夫を重ねていくことが重要となってきます。
時代の変化とともに直面するさまざまな課題の解決に向け、新たな一歩を踏み出すため、産学官の多くの関係者の知見や技術が集結する「下水道展'24東京」の場が生かされることを願っています。今年の下水道展は、7月30日から8月2日まで、東京都江東区有明の東京ビッグサイトで開催されます。ここでは、下水道界をリードする最先端の工事や下水処理技術、24時間365日稼働し続ける下水道施設を安全かつ効率的に維持管理するための新たな技術やさまざまな工夫などが紹介されます。当局においても、東京下水道の成果や取り組みなどを広く一般のお客さまにも理解していただけるよう、下水道の仕組みや役割、新しく開発された技術などをパネルや模型、映像等を用いて展示するとともに、未来を担う子どもたちに、普段は目にする機会の少ない下水道の存在や重要性を理解していただけるよう体験型の催し物を用意するなど、幅広い世代に向けて積極的に情報発信を行ってまいります。
また、併催企画として、下水道革新的技術実証事業(B―DASHプロジェクト)により本年1月に稼働した、下水汚泥中のりんを回収して肥料利用する技術の実証を行う「りん回収・肥料化施設(砂町水再生センター)」等を見学できるテクニカルツアーも開催する予定です(写真2)。
都市の基幹インフラである下水道が担う役割の重要性は、下水道に携わる多くの事業体の方々に認識されていると思います。当局の展示ブースをはじめ、下水道展に大勢の皆さまにご来場いただき、下水道界がこれまで培ってきた技術や、積み重ねてきた歴史の一端を感じとっていただけましたら幸いです。



