座談会 加速する福島本格復興への歩み 被災経験みがく〝世界のフクシマ〟人を呼べ 水素・バイオエネの普及へ再びの好機

東日本大震災から14年経った。東京電力福島第1原子力発電所事故をはじめとして特に甚大な被害を受けた福島県で、疲弊した郷土を立ち直させるため奔走した域内の企業だったが、今や被災の経験を磨き世界と並び立つ活力を宿している。原発事故対策・除染関係の企業連携を後押しし県内とも深いつながりを持つ環境新聞社では、今回、注目の県内企業経営者を集め座談会を開いた。被災時の状況や、事業継続の期待と困難さ、今後に向けた展望について、リアルな声を聞かせてもらった。
(司会=酒井 剛・環境新聞社/2025年10月28日、於:福島ミドリ安全福島支店)

●出席者

産総研福島の草分け、魂込めた復旧・復興

坂西 欣也 氏 座談会のコーディネーター。九州大学、産業技術総合研究所での石油・石炭やバイオマスの研究を経て、東日本大震災後に産総研福島再生可能エネルギー研究所の設立に携わった。現在はエネルギー・エージェンシーふくしまの代表。

「倒産」覚悟の顧客半減 トヨタ動かした情熱

白石 昇央 氏 建築物のエネルギーコンサルティングを手掛けるエナジアと、福島ミドリ安全の代表取締役。欧米での事業経験や空手修行などを経て、リーマンショック・震災後の福島における産業休業問題に直面。自立・分散型の自然エネルギーへの転換の必要性を痛感し、エナジアを創業した。

原発事故の「体感」糧に収益化の死の谷へ挑む

板羽 昌之 氏 原子力分野の放射線管理技術者として福島第一原発などで勤務し、震災後は技術支援や原子力技術の他産業展開に尽力してきた。現在はeロボティクスの代表取締役を務め、再生可能エネルギーやロボット・ドローン分野に取り組むと共に、環境ロボティクス協会を主宰し産業の枠を超えた連携を築く。

元日銀マン、新エネ拡大へコスト感覚徹底化

田邉 敏憲 氏 日本銀行勤務後、地域資源を活用した成長産業や再生可能エネルギーの推進に取り組んできた。18年に創業したエアロディベロップジャパンでドローン用タービン発電機の開発を進め、福島の震災復興や航空宇宙産業の発展に貢献している。持続的な事業構築に向け社会実装や連携構築の重要性を強調する。

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産総研の福島展開

司会(環境新聞・酒井) 2021年3月11日に発生した東日本大震災について、14年以上過ぎました。まだ復興途中にある福島県の情報発信がだいぶ少なくなっているように感じております。そこで、環境新聞が創刊60周年を迎える記念特集号で、福島での歩みと今後に向けての取り組みをご紹介いただいて、読者の皆さまにお伝えしたいと思い、本座談会を企画することになりました。どうぞ今日はよろしくお願いいたします。

はじめに、コーディネーターの坂西先生です。福島とのつながりは先ほどお話がありました産総研の福島再生可能エネルギー研究所の開設で赴任されたということですが。

坂西 そうです。産総研福島再生可能エネルギー研究所(FREA)は14年4月、震災の3年後に福島県および郡山市のご協力で、急ピッチで立ち上がりました。場所は、郡山市の西部第2工業団地に好適な敷地が空いており、再エネ実証に向く南向きの土地があって決まり、PVが約700キロワットや300キロワットの風車、再生可能エネルギーによる水素製造や地中熱実証サイトなどがあります。

東日本大震災が発生した3・11は、私は広島県の産総研・バイオマス研究センターにいました。14年にFREAが郡山市に設立された際、つくばや他の地域から産総研の研究者が30名ぐらいFREAに異動し、その際に白石社長にもお会いしました。

私の主な専門はバイオマス利用技術です。県内の木質バイオマスなどを有効利用できないか。ご存じのように震災直後は放射線量が高くてとても使えなかったので、とにかく手始めに線量を下げる除染の部分でまず協力をしました。その過程で、県内のバイオマス資源をなんとか活用できないということで、線量の高いバイオマスの木や草、農業残渣をどう有効利用するかという調査をしましたが、14年当時は難しく、残念ながらFREAにはバイオマスの研究部隊が参画できませんでした。

その後、15年にFREA所長代理に異動し、本格的に福島県のバイオマスや水素・再エネ関係の研究会や企業支援、展示会などに関わってきました。

座談会 加速する福島本格復興への歩み_坂西 欣也 氏
坂西 欣也 氏

全社を挙げた防護服輸送

司会 ありがとうございます。白石さんは3・11の時、どのようでしたか。

白石 (映像を流し)これは私たちが撮影した被災後の南相馬市の様子を映したもので、当時の状況がよく分かります。当時は県警や自衛隊の姿が多く見られ、町全体が非常事態の様子を呈していました。会社としても業務ができない状況だったため、社を挙げて避難物資の配布に取り組んでいました。相馬市の市長、副市長や、南相馬市の市長とも協力して物資を配って回りました。

当時、原発で水素爆発が発生した際、ミドリ安全グループとしてできることを模索していました。放射線の影響でトラックが栃木県までしか入れず、物流が途絶えていました。そのため、ヤマト運輸や佐川急便の役員に連絡を取り、栃木県までは物資を運べることを確認しました。具体的には、グループの関係先の全国から掻き集め、防護服2万8千着を調達し、自衛隊、警察、報道関係者、県などが着用するために1F(福島第1原発)および関係各所へ届けました。社員が特別な許可証を持って栃木までトラックで取りに行きました。当時は停電や水素爆発の混乱の中で、多くの人が避難していましたが、私たちの会社は安全を守る企業として活動を継続しました。この経験を通じて、大地震や津波、放射線災害において必要とされるものを明確に認識しました。この時はまだエナジアの設立前のことです。

座談会 加速する福島本格復興への歩み_白石 昇央 氏
白石 昇央 氏

死の谷飛び越すドローン

司会 貴重な話を伺いました。板羽さんはいかがでしょうか。

板羽 協会と環境ロボティクスの話が重なってしまいますが、双方は同じ理念のもと、同時期に設立した組織です。私どもは17年に設立し、本社を南相馬市に構えました。福島県内には会津坂下町にも拠点を設けており、埼玉県川越市に首都圏への広報活動のため連絡事務所を設置しております。

理念として未来を担う子どもたちや高齢者の方々に夢を提供することを掲げ、AI・ロボティクスの技術を活用し、陸・海・空の社会課題を解決するサービスを提供することを目指しております。

協会設立の理由は、中小企業やベンチャー企業の私たち1社だけでは、AI・ロボティクス技術による社会課題の解決を実現するのは困難なため、異業種の方々との連携を図り、ロボットを活用したサービス展開を目指したことにあります。建設機械のレンタルを行うカナモトや、ドローン・ロボットメーカーであるイームズロボティクスなどの企業、水上ドローンの開発企業、ドローンスクールを運営する企業、物流関連企業、また同様の理念を持つ他団体や協会、災害・医療分野で医薬品物流を手掛ける企業などが参加し、協会を組織して活動しています。

協会とeロボティクスによる事業内容についてこちらをご覧ください。(動画を見ながら)これは南会津町で、福島県のユースケース事業の一環として、廃校となった中学校を活用し、ドローンの実証事業を実施した際の記録です。中学校の校庭から、背後にある山の尾根を越えて700メートル先にある集落までドローンによる食品の輸送実証を行いました。

協会・会社として、福島県の補助事業等を活用し、数多くの実証試験を行ってきましたが、これを事業化し社会実装へと展開するための収益化が現段階で大きな課題となっています。事業化が成功するか失敗するかの瀬戸際であるいわゆる「死の谷」を克服し、どのように実装へとつなげていくかが最大の課題です。

現在は国や県の支援を受けながら次のステップに向け複数の収益事業を展開しています。26年以降はステージ3と位置付ける段階に入り、無人航空機や東北地方のモーダルシフト実現のための航空モビリティ活用、海上ドローン展開に向け新たな通信システムの導入など、国内外のグローバル市場への展開も見据えています。特に洋上風力発電分野に関連して海上では周波数帯のLTEが届かないことから、新しい通信システムを提案し、展開していきたいと考えております。

座談会 加速する福島本格復興への歩み_板羽 昌之 氏
板羽 昌之 氏

エネコストの徹底計算

司会 どうもありがとうございました。

田邉さん、3・11の時は東京にいらっしゃったかと思うのですが、どのように感じられていましたか。

田邉 三菱重工業の長崎研究所にいらっしゃった故・湯原哲夫さんは、東大工学部出身で、その後、米国機械工業学会(ASME)の日本代表となるなど原子力の専門家なのですが、彼が「田邉さん、これメルトダウンしないよ」と言っていたのです。日本の権威ですよ。こうした(メルトダウンという)結果になりまして、そのときの印象がより一層強烈でした。僕らは原発がいかに高額なシステムか知っています。1キロワットがだいたい30万円です。原発は100万キロワットですから、3千億円なのです。事故時、あれに海水を入れたら(その後の使用は)アウトだろうと、みんな判断していたんじゃないかなぐらいのことを思っていましたが、本当はもっと深刻だったということが後で分かりました。ずっとそんなことを考えておりました。

例えば、固定価格買い取り制度(FIT)などにおけるメタンガス発電についてですが、私たちのタービン発電機も1キロワット当たりのコスト計算を行う必要があります。小水力発電の場合、キロワット当たり約200万円となり、200キロワットで4億円となります。こうした計算を基にさまざまな検討を行います。あらゆるプラントの価格を算出し、どこまでFITを踏まえた事業性に適合するかを評価しています。現在、FITにより爆発的に導入が進み問題化している太陽光発電が話題となっていますが、当初、一部の有力者による強い働き掛けで(補助額が)決定したという話もあります。

その後の震災復興政策では、ドローン搭載用ガスタービン発電機提案をしましたが、福島ロボットテストフィールド(県の福島イノベーション・コースト構想に基づき整備された、陸・海・空のフィールドロボットの研究開発・実証試験・性能評価・操縦訓練を実際の使用環境で行える世界的な拠点)での福島県検収で合格しました。現在も一部の事業で関係があります。

ここでご認識いただきたいのは、日本では今後、水素の時代が到来するという点です。なぜなら、水素は国内で生産可能であり、国産エネルギーによる発電システムを普及させることが可能になるためです。ガスタービン発電機用に液体水素化する場合に若干の手間がかかりますが、バックファイア(燃焼ガスの逆流)が発生しないため地域分散型エネルギー源として有用であると考えています。

福島との関係で言えば、浪江町に水素関連の約300億円規模の設備があり、現状ではその活用方法が明確になっていません。これを福島から発信するストーリーとして構築いただくことが適切ではないかと考えます。その際には、水素の用途について多くの方々にご理解いただくことが望ましいと考えています。

座談会 加速する福島本格復興への歩み_田邉 敏憲 氏
田邉 敏憲 氏

ブリッジ技術をつかめ

司会 ちょうど水素というお話が出たので、坂西さんも携わっていらっしゃったかと思います。もし一言あればお願いします。

坂西 いろいろなお話があり、白石社長もお話しになっていましたが、水素は産総研としても、FREAでも太陽光発電の余剰電力で水を電気に分解して水素を製造しています。浪江町に福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)ができて、そこに1万キロワットのアルカリ水電解による製造装置が今も新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで稼働しています。現在注目されているのは、グリーンイノベーション基金で日揮と旭化成が再エネ水素を使ってグリーンアンモニアを1日4トン程度製造するプラントを完成させたことです。今は試運転中で、来年から本格稼働します。FH2Rのグリーン水素を活用してグリーンアンモニアを製造し、輸送・貯蔵性を高めて利用していくということにつながってきています。

FREAの水素の研究部隊としては、ここ(福島ミドリ安全福島支店)のようなゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)として、太陽光発電と水電気分解により水素をつくって吸蔵合金で貯め、燃料電池で電気とお湯を作るというようなシステムを構築しています。また、水素の利用先として発電だけではなくて、モビリティでどう使っていくかとか、ドローンに使うとか、いろいろな研究開発に今、関わっているところです。これから福島が最先端でやっていくシーズ(事業化の種)が広がってきています。

先ほど板羽さんのお話で「死の谷」という課題があったので、一言だけ。産総研も「死の谷」を越えるためにどうするか。要するに革新技術と現状の技術をつなぐのに、私たちはブリッジテクノロジーを開発し、橋を架けるということをよく言います。

例えばトヨタの技術で分かりやすく言うと、プリウスは20年か30年ぐらい前に開発されたのですが、じゃあ、みんなプリウスに乗っているかというと、そうではないわけです。エンジンもまだ残っているし、ディーゼルも残っています。現在、プラグインハイブリッドや燃料電池車(FCEV)のミライなど、いろいろ開発されていても、それを一般的に利用するには30年、40年掛かるので、そのためにはブリッジでいろいろな技術を組み合わせる、先ほどのドローンで物流するということも含めて、やはりつないでいかないと、一気に全部変わることは難しいということを今感じているところです。ですから、一つずつ開発していって、社会実装のための橋をつくっていくというが重要と思います。

倒産覚悟の中の光明

司会 どうもありがとうございます。

それでは、震災以降、今までいろいろな困難や課題があったと思います。事業成果やトピックスを併せ、それぞれご紹介いただきたいと思います。白石さんからよろしくお願いします。

白石 まず、先ほどの話から継続しますと、震災の影響で県内の顧客8千社のうち半数の4千社が長期休業となりました。倒産も覚悟したなかで、事業の今後の方針を探るためにヨーロッパを中心として世界12カ国を視察し、各地で日本の歴代首相2人と会った再エネベンチャーの社長、政府関係者、企業とも面会し、さまざまな情報を得てきました。

ドイツのある地方に行った際には、13年前に自前で電気を500%つくっていて、余剰分についてブロックチェーンを活用し各州に売っており、財政の極めて高い良好な街を目の当たりにしてエナジアをつくるきっかけをつかみました。ある地域熱供給会社を経営する男性と会いまして、その方はザルツブルク工科大学の博士の知人である農家のオーナーなのですが、小水力とバイオマスによる発電を駆使しつつ、そうしたエネルギーを活用するためのソフトウェアを活用して地域エネルギーのマネジメント会社を運営しており、「この方にできるのだったら」という確信を抱きました。その時に考えたことは、3・11は結局、F1の第2号機系統冷却がシャットダウンして全県に影響が出るというトップダウン式の集約構造が引き起こした事故でしたが、電力供給について小規模・自律・分散型の発電所をスマートグリッドにより結びつつ、防災性を具備して、脱炭素性を高め、地域のエネルギーコストの削減を同時化できる地域エネルギーシステムにしていけば産業ができる、経済性が得られると考え、エナジアをつくっていきました。

最近では星野リゾートと連携し、海水を淡水化し、ヒートポンプの熱源にし、8年使用したEVの車載用リユースバッテリーと太陽光を動力に活用し、毎日60トンの飲料水と施設に必要なエネルギーで3日から5日間稼働できる「水熱電自立型脱炭素事業モデル」の取り組みがあります。今後地域で導入が進むFCEV、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)を未利用電気の起動電力として活用し、未利用熱である地中熱、地下水熱、下水熱や温泉熱等をヒートポンプと組み合わせ、移動体電力と未利用型の再エネ熱を組み合わせた地産地消型の地域熱源供給インフラについて、トヨタの水素部門長にプレゼンテーションを行いました。3年半前のことです。

広がる「V2X」圏

白石 当社が提案したのはFCV、EV、PHEV等の移動体の持つ電源を三相電力に変換するIoTハブ「V2X」です。ここ、福島ミドリ安全の福島支店にも導入しています。いわき支店においては移動体電力の活用により、拠点施設の太陽光発電や地熱発電などの再エネと組み合わせることで、ブラックアウト時にも稼働できるほぼ自立した運用モデルを実現しています。このモデルの導入を提案いたしました。

また、熱エネルギーの補完についても、移動体電力を起動電力としてヒートポンプを稼働させるという考え方を取り入れています。これは従来のガス、水道、電気に代わる新たなローカルエリアモデルとなる可能性があると考え、トヨタにもご提案し、V2Xにおいては評価をいただき、トヨタとNEDO事業を実施し2年半が経過しています。具体的には、水素社会のBCP社会基盤事業として、NEDOとも3年間の契約を締結しています。

NEDOが発表している資料によると、トヨタ車の FCEVの給電機能を活用し、V2Xとの組み合わせによるカーボンニュートラル社会における新たなエネルギー産業基盤構築を目指しています。トヨタはFCEVを提供し、当社はV2Xの技術を担当しています。現在、福島県を含む6都県(東京、神奈川、福島、愛知、福岡、兵庫)が燃料電池商用車の導入で全国をリードしています。

これまでトヨタのFCEV「ミライ」などの販売台数は、十数年で世界的に2万8千台の販売実績がありましたが、今後6都県で30年までに計2万台のFCEV導入を目指しています。これは主に小型トラックが対象であり、6都県においては水素の燃料費とディーゼルとの差額700円が10年間、国から補てんされる仕組みです。このため、6都県では水素を燃料とする移動体および水素ステーションの整備が進んでいます。

V2Xは移動型電力を建屋へ給電できる技術であり、先日、アメリカの学会にてNEDOの代表の方々とともに発表してきました。官民連携による水素イニシアティブの一環で、ロサンゼルスで開催されたイベントです。オリンピックにおける水素利用のまちづくりが背景となっています。

郡山市内ではV2Xを三次バックアップとして採用した世界で初めての複合物流拠点が完成しました。一次はディーゼル、二次は太陽光と蓄電池、曇天時には駐車中のトラックからV2Xで三相電力を供給する仕組みです。防災拠点としての機能も備えており、NTT、郡山市や大手不動産会社など5社が防災協定を締結済です。

世界が目指す〝フクシマ〟へ

坂西 私は白石社長と福島に来てから10年来の付き合いで、昼も夜も情熱的にいろいろお話を伺ってきました。技術コンサル的に毎月のようにお会いしています。いつもこういう夢のある話をされます。技術の実装の話もそうですが、実用化のために何が問題かというとやはり規制なのです。例えば水素にしても、エネルギー自立のまちやビルを造るということに関して、全部規制があって、既存の電気会社、ガス会社、石油会社は協力すると言いながら自分を守っている側面もあって、そこを突破していかなければいけません。

先ほどの6都県の水素に関しては、東北で福島県が一つ入っています。私は福岡県出身で、九州大学の佐々木一成先生も私の知り合いなので、福島県と福岡県の「福福連携」をしましょうと話しております。水素社会の2大拠点で連携すれば力強いでしょう。さらに福島・浜通り側を災害からいかに復旧させるか、原発のエネルギーに依存しないと標榜した意味では、福島がトップランナーです。RE100を日本の政府目標よりも10年前倒しで2040年の実現を目指しています。是非、先ほどの白石さん、田邉さん、板羽さんのお話も含めて、福島がトップになって、国内や世界からいろいろな人が勉強に来るぐらいの拠点になってほしいというのが私の感想です。これが今日のテーマである本格復興になるのではないかと期待しています。

守れ日本の原発技術

司会 板羽さんから、これまでの事業課題や今までの成果、トピックス等があればご紹介いただきたいと思います。

板羽 私がまだ前職で、福島の原子力事故が起きる前ぐらいに、日本の現場放射線管理技術を中国が求めていました。当時急ピッチで進む中国の原子力推進の現場を支える人材が足りないということで、民間レベルで日本に協力を求めていたのです。私は震災前に中国の原子力に関連した業界の人たちとやりとりをしながら、日本の現場作業環境改善技術(局所浄化換気技術や遮蔽技術など)を中国に橋渡しをすることをやっていた時期がありました。

私は震災後に日本の優れた原子力の現場改善技術がこのまま先細りして行くのはとてももったいないと思い、これを他の分野に展開していくということが非常に重要と考え、前職を卒業して現職に至っております。

実際に3・11が起きた後は、私は前職で出来るだけ人力に頼らず機械化、システム化された除染を南相馬などで実施してきました。具体的には海外からいち早く路面洗浄吸水車両を導入して使用した道路除染や、新潟の屋根屋さんと連携した高圧洗浄による住宅の屋根除染です。まさに当時は福島ミドリ安全さんの屋根高所の安全対策技術などをフルに使わせて頂きました。

白石 ありがとうございます。あの担当でした。

板羽 除染の安全ということで、屋根の上に登って高圧洗浄で洗浄水をこぼさないように回収して、それをまた浄化するようなものを竹中と連携してやりました。

司会 田邉さん、いかがでしょうか。

着々、ドローン物流網

田邉 私は物流のモーダルシフト、中でもドローンや空飛ぶクルマ物流への移行という観点でお話をしたいと思います。日本ではトラックから船舶や鉄道へのシフトしか考えられておりませんが、ドローンや空飛ぶクルマへのシフトが今後、極めて重要になってくる。

日本は戦後、空の空間、航空機産業に手を出せなかった。今はロケットが活況ですが、世界で他所にない物を造るということで、私は18年、69歳の時に創業しました。空を飛ぶものはやはりエンジン。ドローンは電動だからエンジンで駆動する発電機です。回転数が高くないと発電機が小さくならないからタービン発電機にいった。日本で造れるのは大きく2社ということでIHIか三菱重工業です。探した結果、IHIのH2ロケットのタービン技術をゲットして、開発を加速させました。福島に関係あるものでは、震災復興助成金を使い2種類のドローン搭載用ガスタービン発電機を製造納入しました。

日本は現在ドローンに搭載するには150キログラム未満でないと造れないという制約があります。ロケットの方は割と自由なものですから、浜通りの福島ロボットテストフィールドは本来、ドローン企業が使っているのですが、最近は宇宙ベンチャーのロケット開発も浜通りに入ってきています。浜通りが航空宇宙産業のメッカになる方向ではないかと思っています。

皆さんは大阪・関西万博で話題になったJoby(ジョビー)の空飛ぶクルマはいつごろ国内に社会実装されると思いますか。

白石 物流大手の社長と話したら「あれはもう飛ばせる」と話をしていました。

田邉 正式に国交省の耐空証明が出ないと無理ですが、1年半~2年内には出ると方向と聞いています。出たときに、私は、空飛ぶクルマを使った事業開発と社会実装も担っていく考えです。ちょうど国交省からモーダルシフトの協議会を作って、何かやってくれないかという話が来たので今後具体化させていきます。

そこでは、ドローンや空飛ぶクルマによるモーダルシフトを提案しておりますが、「人」だけ運んでいるのでは事業にならない。需給関係を考えると「物」が重要です。物流で、高価な物を運ばなければいけない。時間の制約がある医薬品や鮮魚などをスピーディーに運ぶということを考えています。

鮮魚をドローンで集め空飛ぶクルマなどで輸送するにしても、量が集まらないと事業にならない。そうなるとやはり、ある程度の広域を想定した集荷体制を組む必要があるため広島県を中心に中国地方5県で枠組みを考えて、ちょうど中心にある庄原市の立地を生かす方向性を考えた。ここは高速道路があって飛行ルートの航路となる空間が活用しやすいため、道の駅に離発着基地(バーティポート)を作る計画です。そのようにして、中国、九州、四国地方はだいたいカバーしつつあります。

この周辺で言えば、例えば山形新幹線が入っているのは福島。三陸沖の魚をドローンや空飛ぶクルマで集めて、福島空港や仙台空港で輸出してしまう。そのシステムを作ることによって地域の農水産物に価値を持たせることになる。経産省の報告書によれば30年の全国の物流の需給ギャップは34%の見通しですので、この輸送ニーズを損なわないためにまさに我々のシステムが活用できるのではないかと構想しています。

座談会 加速する福島本格復興への歩み_福島ミドリ安全の福島支店で会談した
福島ミドリ安全の福島支店で会談した

FIT功罪見極めよ

司会 ありがとうございます。坂西さん。

坂西 ギャップを埋めるというのがポイントですね。

環境省のお話ですが、私もバイオマスに関わりました。01年バイオマス・ニッポン総合戦略が始まったのは、もともとは京都議定書です。1993年に気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)で京都においてClean Development Mechanism(CDM、京都メカニズム)を提唱しCO2削減をするということです。2008年から2012年がちょうど約束期間ということで、マイナス6%といって一生懸命やりました。昼休みに電気を消したりすると、やはり10%減ったりするのです。

あの地道な努力をやっていって、環境省も地球温暖化対策が錦の御旗なので、化石の火力発電はこれから増やさないで、原発を当時の54基を倍の100基にするということになりました。経産省もどこも、そこに向かっていたのに11年、これは東電さんのミスもあったかと思いますが、あまりにも性急に原発増強をやり過ぎたということを感じました。

私たちが忘れてはいけないのは、地球温暖化対策として化石資源に依存しないというところから、原発や水素、バイオマス、再生可能エネルギーにシフトしようと言っていた、ちょうどそのころに原発の事故が起きてしまった。東日本大震災があったというのが教訓としてあるのかなと。そのときバイオ燃料にしても水素にしても、ちょうどプリウスも発売された頃で、非常に追い風でした。原発で水素を作ってというような勢いで、世の中はカーボンニュートラルで今よりももっとすぐにできるというような熱気がありました。

特に環境省も地球温暖化が一番重要な柱ですから、そこに全員で向かっていたところにちょうどそういう震災があった。それは非常に不幸ではありますが、今、震災から14年たって、それをまた見直して、どうしていくか。今、水素や再エネをどう導入していくかという段階にまた戻ってきたのかなと思っています。

震災直前はバイオ燃料やバイオガス、バイオ水素に力を入れていたのですが、震災になってFITが始まり、バイオマスも全部電力に行ってしまい、そこのバランスが崩れているというのが今はまだ続いています。FITの功罪とよくいわれますが、罪の部分をこれからどう払拭、克服して、既存の電力やエネルギー、ガス、石油会社さんももっと本腰で再エネ、水素導入に関わっていただけるか、我々の働きかけに掛かっているのではないかと考えます。

司会 皆さん、本日はありがとうございました。

座談会 加速する福島本格復興への歩み_右から、白石社長、田邉社長、坂西代表、板羽社長と、司会の酒井
右から、白石社長、田邉社長、坂西代表、板羽社長と、司会の酒井