AIを用いたアスベストの計測支援システム 対象繊維をほぼ漏れなく検出 国立環境研究所 資源循環領域 山本貴士

国立環境研究所 資源循環領域 試験評価・適正管理研究室 主幹研究員 山本貴士
計数工程の省力化・自動化に貢献

1.はじめに

アスベスト(石綿)はさまざまな優れた性質を有する繊維状けい酸塩鉱物であり、石綿含有建材などの製品に使用されたが、重篤な健康被害の原因となったことから2006年に原則全面禁止された。アスベストばく露の機会は、製品の製造や使用から、石綿含有建材使用建築物の解体などの工事や被災による飛散に移ったといえる。09年の国土交通省の推計では、石綿含有建材使用民間建築物の解体件数は28年頃に年間約10万棟のピークに達するとしており、将来的な健康被害の防止には、解体工事からのアスベスト繊維飛散の防止が肝要である。解体工事に対しては大気汚染防止法により作業基準が定められているが、アスベストの漏えいがしばしば報告されている。アスベスト繊維の飛散防止には漏えいの早期検知と是正が不可欠であり、迅速分析に対する強い要求がある。

空気中アスベスト繊維の分析法は、主には位相差顕微鏡を用いて指定された数の視野を観察し、アスベスト繊維を計数する方法である。計数視野数は目的により異なるが、いずれも多くの視野を計数する必要があり、分析には相応の時間を要する。また、分析者の熟練度や疲労は計数結果に影響するとされており、英国安全衛生庁(UKHSE)の分析ガイドでは1作業の計数視野数を2400視野に制限している。その一方、欧州連合(EU)は25年にアスベストの職業ばく露限界値(OEL)を1立方センチメートル当たり0・01本に引き下げており、これに対応するには計数視野数を増やす必要がある。このようにアスベスト分析可能な人材不足が懸念されており、省力化・自動化が求められている。

2.アスベスト分析と人工知能(AI)

前述のアスベスト繊維の分析法は1970~80年代に確立されたが、80年代にはすでに自動化が試みられている。当初は単純な画像解析によるものだったが、2千年代以降には人工知能(AI)の著しい発展により、AIをアスベスト繊維検出に適用する事例が増えてきた。例えば、走査型電子顕微鏡画像にセマンティックセグメンテーションモデル(画像中ピクセル毎にクラス分類を行うモデル)であるU‐Netを適用した例や、蛍光顕微鏡画像に物体検出モデル(画像中の物体を特定して位置を出力するモデル)であるYOLOv4を適用した例などがある。これらのようにAIをアスベスト繊維検出に適用することにより、熟練した分析者と同等の精度かつ短時間でのアスベスト分析を実現でき、また熟練度や疲労度など分析者依存の誤差を回避できる可能性がある。

AI適用によるアスベスト分析は現在公定法には採用されていないが、ASTMインターナショナルが空気中繊維数濃度の自動分析の規格化作業を進めており、この規格中にAI適用による繊維検出・計数も取り上げられると承知している。

3.アスベスト計測支援システム「メコラス※(※は登録商標記号)」の開発

以上の背景を踏まえ、日本エヌ・ユー・エス、環境管理センター、国立環境研究所の三者は、AI適用によるアスベスト計測支援システムの開発を21年に開始した。本システムは、顕微鏡画像中の繊維をAIモデルにより検出するプロセス、検出繊維がアスベスト繊維の計数基準(環境省の「アスベストモニタリングマニュアル」)に合致するかを判定する画像解析プロセス、結果を表示するユーザーインタフェースから構成される。繊維検出に用いるAIモデルにはセマンティックセグメンテーションモデルであるConvNextV2-Nano-UNetを採用した。AIモデルの学習と評価には、日本環境測定分析協会の会員企業より提供された大気試料画像と熟練分析者の計数結果から作成した教師データを使用した。検出結果は、再現率(分析者が計数対象とした繊維のうちAIモデルが検出できた割合)と適合率(AIモデルが計数対象と判定した繊維のうち分析者も計数対象とした割合)により評価した。再現率は95%、適合率は71%であり、計数対象繊維をほぼ漏れなく検出できたことを確認した。

図1に本システムによる計測結果の出力例を示す。指定したフォルダー内の全画像ファイルに対して計測を行い、各ファイルについて検出した繊維本数をリスト表示する。リスト上でファイルを選択すると図2に遷移する。図2は選択したファイルに含まれる全繊維について長さ、幅、アスペクト比をリスト表示し、リスト上で繊維を選択すると左側の画像表示に該当の繊維が矩形で囲まれる。

本システムは、商品名「メコラス※(※は登録商標記号)」として26年度第2四半期に上市された。

4.おわりに

解体工事の増加に伴う漏えい監視機会の増大やEUでのOELの引き下げなど、空気中アスベスト繊維の分析、特に計数工程の省力化・自動化が求められている。AIを用いた計測支援システムはこの問題の解決策の一つと考えており、ASTMインターナショナルをはじめとした公的機関により規格化・公定法化されることで、普及が進むことを期待したい。

AIを用いたアスベストの計測支援システム 国立環境研究所 資源循環領域 試験評価・適正管理研究室 主幹研究員 山本貴士 対象繊維をほぼ漏れなく検出 計数工程の省力化・自動化に貢献_図1 計測結果の出力例
図1 計測結果の出力例=クリックで拡大=
AIを用いたアスベストの計測支援システム 国立環境研究所 資源循環領域 試験評価・適正管理研究室 主幹研究員 山本貴士 対象繊維をほぼ漏れなく検出 計数工程の省力化・自動化に貢献_図2 繊維の長さ、幅、アスペクト比をリスト表示。左側の画像表示で矩形で囲まれている者が該当する繊維
図2 繊維の長さ、幅、アスペクト比をリスト表示。左側の画像表示で矩形で囲まれている者が該当する繊維=クリックで拡大=

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