プロジェクト下水道(10) 元・東京都下水道局/長岡技術科学大学/東京設計事務所 藤田 昌一 陥没調査 どこから始めるか
全国調査
かねてから恐れていたことが、ついに大々的に見える化されてしまった。下水道管渠の劣化である。
そこでさまざまな対策が検討され、何はともかく全国特別重点調査を実施することになった。調査の対象となる箇所はたいへん広範囲なので、さらに具体的な場所の特定や優先度が決めにくい面がある。

腐食の原因
優先的に実施すべき箇所の一つに「腐食しやすい箇所」とあるが、これは下水道法施行規則第4条にあげられている。それを要約すると、①勾配が著しく変化する箇所②高低差が著しい箇所③伏越しなど硫化水素の発生により腐食の恐れが大きい箇所、となっている。
注目すべき点は、ここで「硫化水素」が明示されていることである。
腐食の原因はいろいろあって特定するのは難しいが、硫化水素が重要な要素としてあげられている。
硫化水素が出る箇所
硫化水素は、流れる下水からも発生している。これが滝のように流れ落ちる状況になるとより発生しやすくなる。
特に、水やドロが溜まっている状態から動き出したときに多量に発生する。
下水道の管渠は基本的には全部下り勾配になっているが、長い年月のうちには、たるみも出来てくる。その窪地に水量の少ないときに水やドロが溜まる。そして雨が降ったり、ピーク時間帯になって流量が増えると、溜まっている間に出来た硫化水素が流れ出てくる。これが幹線管渠に集まる。
そこで提案であるが、具体的には「ケーソン」と「現場打ちボックスカルバート」をまず最初に調べたらどうであろうか。
重要調査箇所その1
ケーソン工法は、シールド工事の立坑として用いられている例が多い。管渠が出来上がった後は、深くて大きなマンホールになる。問題は、このケーソンの天井である。
幹線管渠の本線の方は勾配も高低差も少ないであろうが、ケーソンのマンホールには枝線管渠の取り付けもある。枝線は浅いので、マンホールに流入するには滝のようになっている可能性がある。
そうなると、ケーソンの天井に硫化水素がたまる恐れがある。
下水道の普及促進時代には、下水道幹線管渠を道路の予定地に敷設することがあった。道路の用地買収が済んだところで、道路建設に先立ってケーソンを降ろして立坑を作り、そこからシールド幹線を発進させたのだ。
今ではケーソンの上は道路になっている。このマンホールの蓋を開けるだけでも通行止めが必要である。その後、ケーソンの天井を補修、補強するには、もっと大掛かりな通行止めになる。
高速道路では、リニューアルのために計画的に通行止めを実施している。それと同様に、道路下のケーソンのリニューアルも、大々的かつ計画的に点検、補修、改良していく必要がある。この際には、道路本体のリニューアルと同時に行うのが効果的である。
重要調査箇所その2
現場打ちのボックスカルバートは、多くの場合、開削工法で築造されているので埋設深が浅い。従って、腐食の影響がすぐに地表面に現れやすい。
また、天井部分の現場打ちコンクリートは、もちろん基準となる強度は確保されているが、打設時の状況によっては、品質管理の行き届いた工場製の鉄筋コンクリート管との違いが出てくる。
年度末の工期末には寒中コンクリートの可能性もありうる。
現場打ちのボックスカルバートの天井は、万遍なく硫化水素に接触しやすい。ケーソンのように流路に点々としているのではなく、ずーっとまっすぐにコンクリートの天井が続いている。
だから、ここではドローンなどの活躍で長距離にわたっての調査が可能である。
まずはケーソンと現場打ちボックスカルバート
「腐食しやすい箇所」として伏越しはすでにリストアップされているが、それと同時に、ケーソンとボックスカルバートを推奨したい。つまり硫化水素が集まりやすい場所の代表と考えられるからである。
埋設深さや内径の大小、建設年度に関わらず、今すぐに検査するのがよい。
