プロジェクト下水道(9) 頼りにされる処理場
親しまれる処理場
下水の処理場というのは周囲からはあまり歓迎されてはいないようである。だからこそ、できるだけ親しんでもらえるような工夫が必要である。

例えば、東京都の三河島水再生センターでは毎年、場内で「さくら観賞会」を開いている。その日は大勢の人たちが花見にやってくる。
桜を育てるのは大変である。花が咲けば花びらが散る、毛虫が落ちる、落ち葉も掃かなければならない。
「桜切るバカ、梅切らぬバカ」を言葉通りには受け取れない。桜は慎重かつ大胆に剪定しなければならない。
そんな努力の上で地元に親しまれているのであるが、「親しまれる」という状況をさらに進めて「頼りにされる」レベルにまでもっていくことはできないだろうか。
備蓄倉庫
それにはまず施設上部の公園に「防災備蓄倉庫」を大規模に設置するのがよい。
地震、洪水、道路崩壊
などさまざまな災害が発生すると「住民避難」となる。ところが避難のための準備が十分でない自治体が多い。なかでも備蓄用品の置場がないことが深刻な問題になっている。
食料、水、仮設トイレ、段ボールベッドなどを保管しておく場所がないのだ。
そこで広い面積をもつ処理場を有効に活用したい。場内に大きな倉庫を建てるのは無理があるので、そこは処理施設上部の公園に建てることにする。
公園の管理は下水道当局ではなく、地元の市町村が管理していることが多いので、了解を得ることができそうである。処理場が「備蓄拠点」の一部を担当するくらいの気概がほしい。
避難所
たいがいの場合、住民の避難には付近の小中学校の体育館、公民館などが指定されている。普段は避難所として使われていないので、いざというときには不便なところもある。
それならばこの際、いっそ指定避難所として避難専用の施設を下水道施設の敷地内、上部の公園に作ってしまおう。
もちろん、ふだんは体育館や会議室などに利用する。避難専用なので体育や会議などには多少不便なこともあるが、万が一の避難のために万全を期したい。「災害関連死」が避難所の不備で起きるようなことをなくしたい。
いざという時にマンホールをトイレに変身させることは市街地の中でもできる。だが処理場の敷地内であればこれは一層容易である。水洗用の再生水も十分にある。下水熱を使った冷暖房もできる。
処理場には非常用発電機もある。災害が起きて街中が真っ暗になって信号機も消えてしまったとき、処理場の照明が赤々と点いていたならば、なんと心強いことだろうか。
日ごろのつきあい
なにかと苦情が寄せられる処理場ではあるが、いざという時に頼りになるならば、少しは気持ちが和らぐのではなかろうか。
それには災害時だけではなく、日ごろの付き合いも大切である。
これまでも、花見、ライトアップ、見学オープンデイ、夏休み宿題応援会などなどの行事も積極的に行われている。さらにもっと進んで場内の会議室を町内会の事務室に使ってもらうとか、処理場の周囲に樹木を育てて外から見ると森のように見えるようにするなど地域の中にすっかり溶け込んだ処理場にしてみたいものだ。
桜前線は処理場から
桜を育てるのは大変なことを承知の上での提案であるが、全国すべての処理場の中に桜並木を作ったらどうだろうか。それを三河島のように一般公開する。
桜の開花はニュースになる。「□□市の◯◯処理場では、満開の桜を楽しむ大勢の市民の姿が見られました」となれば下水道のPR効果は抜群である。日本中で南から北へ各地の処理場が紹介される。「桜と言えば処理場」。観光名所になる。桜の植樹と管理に国庫補助金が出ないだろうか。これは超広義の下水道事業である。
絵空事にしたくない
ところが、ある処理場の場長さんに「施設の上の公園はどうなっているのですか」と聞いてみたところ、「そこは公園管理者の管轄なので私は上の公園を見たことはない」という。
縦割りならぬ見事な「横割り」である。
現実は厳しい。地域に溶け込んだ頼りになる処理場への道は遠そうである。
ちなみに、私の計算では、東京23区内の下水処理場(水再生センター)の敷地面積を足し合わせると、324ヘクタールある。これは東京23区の面積6万2750ヘクタールの0・5%、東京ディズニーリゾートエリア全体の1・5倍に当たる。改めて考えてみたい数字である。
元・東京都下水道局/長岡技術科学大学/東京設計事務所 藤田 昌一
