カーボンゼロへの挑戦(31) 石狩市、工業流通団地内に再エネ100%ゾーン整備へ 洋上風力発電や水素、マイクログリッドも
北海道石狩市は、石狩新港エリアに整備した工業流通団地内に「石狩湾新港地域内REゾーン」を設け、太陽光発電や木質バイオマス発電を整備し、再エネの「地産地活」に取り組む。今年4月には、環境省の脱炭素先行地域に採択された。初年度は700万円の交付金を得て、特定送配電事業を活用してゼロエミッションデータセンターの整備などを進める。
このほか、大規模な洋上風力発電や水素サプライチェーンの構築、マイクログリッド事業にも力を入れる。
再エネの「地産地活」へ
石狩市は、北海道中央西部に位置し、海岸線に沿って南北に長く広がっており、南部は札幌市と小樽市に隣接している。サケやニシンなど漁業の町として知られているが、最近では札幌のベッドタウンとしても存在感を増している。その札幌から約15㌔メートル、車で30分の所には、札幌の海の玄関口となる国際貿易港「石狩湾新港」があり、その周りに総面積3千㌶を擁する工業流通団地が広がっている。機械・金属・食品などの製造業、卸売・倉庫・運送等の流通業やサービス業など多種多様な分野の企業等700社が進出している。
また同エリア内には、北海道ガスが運営する石狩LNG基地があり、その隣接地域(小樽市)には北海道電力が「石狩湾新港発電所」(LNG火力、57万㌔ワット×3基)の建設に着手、その内の11基が2019年に稼働を開始した。その燃料となるLNGは北海道ガスから供給(共同利用)されるなど、北海道を支えるエネルギー要衝の地でもある。
一方で、そのため同エリア内から排出されるCO2は、市域全体排出量の中で大きな比重を占めている。その工業流通団地で市が進めているのが、再エネの「地産地活」だ。工業流通団地内に「石狩湾新港地域内REゾーン(Renewable Energy Zone)」を設けて、電力需要の100%を再エネで供給することを目指す計画だ。これまで総務省や環境省、経産省の支援を受けながら、脱炭素化への取り組みを進めている。
特定送配電活用しゼロエミデータセンター整備
その柱となるのが、特定送配電事業を活用してゼロエミッションデータセンターを誘致する事業だ。これはREゾーンに設置する太陽光発電(1800㌔ワット)とベースロード電源となる木質バイオマス発電により発電されたゼロエミッション電力を、自営線を通じて同地域内に立地する電力多量消費施設の「データセンター」や隣接する公共施設に供給する。その際AIと蓄電を活用して需給管理を行う。石狩市と京セラが18年頃から事業化に取り組んできたもので、木質バイオマス発電もすでに整備中だ。さらなるデータセンターの増設も検討されており、引き続き企業誘致を進めていく方針だ。
さらに新規電源や近隣の固定価格買取期間が終了した電源を受け入れるなど産業集積の実現と共に順次再エネ供給力を増強しつつ、大型蓄電池、デマンドレスポンス型需要施設などの自然変動型電源の受け入れに向けた地域調整力機能を有する施設整備を進める。
また、市庁舎を中心とした公共施設群に再エネ設備を設置して、脱炭素化とマイクログリッド化を進めるとともに、公用車のEV等への転換や、セクターカップリングによる脱炭素型の地域公共交通の導入等を推進。まずは25年度を目途にエネルギーの地産地活を具体化していく計画だ。
10万キロワット級洋上風力発電建設、水素事業も推進
一方で、同市ではグリーンパワーインベストメントが進める10万㌔ワット級の沿岸洋上風力発電の計画があり、現在環境アセスの手続き中だ。さらに、17年に策定した水素戦略構想の実現に向けて、住友商事などと水素サプライチェーンの構築を検討。現在、NEDO事業を活用して、港内の洋上風力発電を用いた水素製造施設の建設等を検討中だ。海外からの水素受け入れと域内外への供給拠点となる施設整備をはじめ、札幌市等も視野に利活用のあり方などについて、北海道電力、グリーンパワー、エアウォーター、京セラ、日鉄エンジなどが連携して事業化の検討を進めている。
また、前出の北海道電力のLNG火力発電所については、CO2回収やカーボンリサイクル、メタネーション等の検討を進める。こうした脱炭素への取り組みを強めていくことで、企業誘致を拡大し、地域経済の活性化につなげていく考えだ。
併せて、同市は北部の自然災害によって孤立する恐れの大きい小規模集落を対象に、太陽光とグリーン水素等を活用したマイクログリッドシステムの導入を行うなど、地域の防災力強化の観点からも再エネ等の普及を進めていく方針だ。
来年度に温対計画改定、30年目標を国と整合化へ
こうした取り組みを進める一方で、石狩市は来年度、市の「地球温暖化対策推進計画」の改定に着手する。昨年3月に策定したばかりだが、30年度目標値が26%削減となっているためだ。政府の目標値(46~50%削減)との整合化させるのが狙いだが、併せて施策の強化も行う。これら先駆的プロジェクトの行方とともに、その充実・強化も注目される。
環境ジャーナリスト 北沢 一樹